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ここ数日、の様子がおかしい。
夕食を終えるとバタバタと片付けを終え、早々に部屋に帰ってしまう。
普段なら眠りにつくギリギリまで何をするでもなく、僕らと一緒にいて他愛無い話をしたりするんですが・・・それすらもない。

「疲れてんだろ。最近こっち来る時も目の下クマ出来てるしな。」

が早寝しているうちに、家計を肥そうと悟浄はここ最近連日賭場へ出掛けている。
・・・と言うのはタテマエで、珍しく負けが込んでいるらしくそれを取り返そうと必死なんですよね。
このまま行くとまずは悟浄の煙草から制限させてもらいますよ、家計費。





そして今日もは夕飯もそこそこに、部屋へ戻って行った。

「・・・やはりも一人になりたい時があるんでしょうか。」

誰に言うでもなくポツリとそう呟くと、ソファーでうとうとしていたジープが返事をするように小さく鳴いた。

「あぁすみません、眠っていたんですね。」

すっかり眠る体勢になっているジープを休ませるようとそっと抱き上げ部屋へ向かう途中、楽しそうな笑い声がの部屋から聞こえた。

「?」



・・・彼女、独り言喋るクセなんてありましたっけ?



時折自分自身に何かを言うような事はあっても、一人で喋るクセはないはずだ。



「でもそれは似合わないと思うよ?」
なら似合うよ。着てみればいいのに」

「無理だって!身長低いし・・・」
「小さくて可愛いよ」

「・・・また、口上手いなぁ。」

「本当の事だからね」




しかも話し方からして何処かに相手がいるようである。
僕はそっと自室の扉を開けて、申し訳ないと思いながらも隣室のの声に耳を傾けた。



「え?今日はもう帰るの?」

「うん・・・ごめんね」


「ううん。あたしはいいけど・・・大丈夫?」

「平気だよ、いつもが話してくれるから気分がいいくらいなんだ」


「・・・なら良かった。早く元気になって昼間外に出れるようになるといいのにね。」
「そうだね」

「そしたら皆に紹介するね!涼ならきっと皆喜んでくれるよ!」



・・・涼?相手の方の名前ですか?



その後もしきりと『涼』と言う名前をが口にするが、相手の声は一切聞こえない。
の声からして庭先にいる人物と話していると言う事が分かったので、ジープを籠へ寝かせると、そのまま部屋を出て裏口から庭へ出た。

「・・・え?」



自分の目を疑った。



が窓辺で話をしているのは・・・白い服を身につけたまるで透けるような肌をしたこの辺では見かけた事のない男性。
しかも・・・膝から下が、靄のように霞んでいて見えない。

、貴女は誰と話しているんですか。」

相手が普通の人間ではない事に気づいているのか、いないのか。
けれど彼女は『涼』と言う名前の男性と楽しそうに談笑している。
いつも自分達に向けられていた笑顔が、今は別の人物に向けられている。
その事実を突きつけられた瞬間、自分の胸の中にじりじりと湧き上がるものを感じた。

「・・・」

その想いを僕は過去にも感じた事がある。
花喃が、僕の留守中に町の人間と話をしていたのを見た時だ。

「・・・一体何者なんですか、彼は。」

ぐっと裏口の扉を握り締める手に力が入る。



こんな熱い想いを自分が再び抱く事になるなんて、思いもしませんでした。





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